load_logo

MEDIA

LEXUS Sport Yacht Concept SEA TRIAL

2017年1月に米国・マイアミで行われたLEXUSブランドの“Through the Lens”イベントにて発表されたLEXUSブランド初のスポーツボート「LEXUS Sport Yacht Concept」。このボートが日本上陸を果たした。東京・夢の島マリーナを拠点に東京湾奥で行われたシートライアルに参加した。

陽光煌めく2017年5月27日、東京・夢の島マリーナのビジターバースにはLEXUS Sport Yacht Conceptが舫われていた。独特のシアーラインとバウステム、丸みを帯びたバウ形状、ローズゴールドを基調としたカラーリング、今までに見たことのない不思議なフォルムのスポーツボート、それがLEXUS Sport Yacht Conceptだった。実物は写真で見ていたイメージよりもさらに丸みが強調されて見える。マリーナを訪れる人びとも興味津々のお披露目だった。

トヨタ自動車では過去20年にわたりPONAMシリーズなどプレジャーボートを開発してきた。LEXUS Sport Yacht Conceptはトヨタがその間に培ってきたノウハウを最大限に活用して生み出された。そしてLEXUSブランドとしての新しい可能性を示すべく提案されたコンセプトボートだ。LEXUS Sport Yacht Conceptの開発にはLEXUSのチーフブランディングオフィサーの豊田章男氏も関与。LEXUSのデザインフィロソフィーに基づく流麗なフォルムと高級感のあるインテリアを、自動車からボートへと昇華している。

前述のように外観はこれまでに類を見ないもの。コックピット周りも独特の形状で特徴的だ。コックピットの後部には湾曲したシートが並んでおり、操船席を除くと、どこに座れば良いのかちょっと悩む。前向きにも横向きにも座れる左右非対称のこのシート、意外に座り心地が良い。スターンのエンジンルームの天井は透明のデッキ。コックピットから2基のエンジンがしっかりと見える。全体に丸みを帯びたバウデッキは、とてもデッキ上からアクセスしたくなる場所ではないが、キャビン内から先端にたどり着ける。離着岸時にはここでロープを取ることになる。インテリアは確かにラグジュアリー感溢れている。全体に和のテイストを意識したと言う作りで、白とベージュを基調にした落ち着いた雰囲気だ。

もっとも造船にはアメリカのMARQUIS(マーキー)社が携わっており、それがどれだけ影響したかは分からないが、LEXUS Sport Yacht Conceptからは、ヨーロッパというよりも、アメリカのラグジュアリースポーツボートの雰囲気が感じられる。そのインテリアに和のテイストをアレンジした感がある。なお設計はRivaに関わってきたイタリア人デザイナーが主となり、全体的なスタイリングはLEXUSのデザインチームが関わったと言う。

約38フィートのステップハルは、カーボン・インフュージョン成形。エンジンはマリナイズしたトヨタ製2UR-GSE V型8気筒5リッター(450馬力)を2基搭載。ドライブはIMCO Marineのレーシングドライブ。プロペラはMerCruiser製をベースにチューニングし(叩い)ている。

この日は、天気こそ良いものの風はかなり強かった。荒川河口付近では10m/s以上の南風が吹く。大潮の最干潮に近い時間帯だったが、風波だけでかなりチョッピーな状態だった。

早速、ステアリングを握らせてもらい、スロットルを押し込んでいく。しかし、なかなかプレーニングしない。ドライブチルトを動かしてみるが、チョッピーな波に遮られて走らない。一旦海へ向かうのを止めて旋回、上流へと向かう。波が収まった途端にプレーニング、ぐいっと加速する。ただし大潮の最干潮のため荒川下流エリアでも所々、水底が露出しており、コンセプトボートを取り回すのは恐ろしい(笑)。ポイントを選んで旋回し再び河口方向へ進路を向ける。

一度プレーニングしてしまえば、先ほどプレーニングできなかったエリアでも波をスパーっと切って走る。途中からブーストも利かせ(まるでレーシングカーのERSだ)約40ノット。水面が荒れているせいもあって公表トップスピードの43ノットには達しなかったが上々の走りを見せた。

LEXUS Sport Yacht Concept、なかなか面白いスポーツボートである。ただし現状では販売・量産は考えていないという。あくまでもコンセプトボートだ。確かにピーキーすぎる設定でまるでレーシングボートのよう。しかもマックス43ノットではレース艇としては物足りない。ラグジュアリースポーツボートとして遊ぶにはもう少しいつでも走れる雰囲気が欲しい。

しかしながらトヨタ自動車がこういうボートを作ったという意義は深い。日本のマリンメーカーでもラグジュアリースポーツボートを作れるという一つの可能性を見出せる。今後はまだ不透明な部分も多いようだが、いずれは60フィートクラスのラグジュアリーボートの開発も視野に入れているとのこと。こちらがいつ具体化するかは分からないが、改めてTOYOTA MARINEの動向を注視していきたい。

筆者プロフィール
野村 敦(のむら あつし)
ボート雑誌の編集者を経てフリーランスのライター・エディターになる。元マリンジャーナリスト会議座長、元日本ボート・オブ・ザ・イヤー実行委員長(現在は副実行委員長・選考委員)など。